【展覧会感想】国立国際美術館「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」

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【会期】2020/11/3(火)~2021/1/31(日)

待ちに待った

コロナ禍で海外の作品が来ない!という事態になり、やむなく中止になった大型展もありましたが、この展覧会は開催され嬉しかったです。久々の西洋絵画を堪能しました。東京での開催時に、BS日テレの「ぶらぶら美術・博物館」を視聴していたのが攻を奏し、作品数が多くても頭にスッと入ってきました。やはり見ておくべきですね。

ロンドン・ナショナル・ギャラリーとは?

簡単に説明すると、1842年設立のイギリスの美術館です。
チラシの文言を借りながらもう少し説明します。他のヨーロッパの美術館は王室が自分たちのために描かせたり収集した絵画が基になっているに対し、ロンドン・ナショナル・ギャラリーでは「市民の手で市民のために形成された」コレクションであることが特徴です。「幅広い地域と時代のヨーロッパ絵画を網羅し、13世紀後半から20世紀初頭までの名品約2300点を所蔵」しているという圧倒的規模の美術館なのです。

個人的お目当て作品

個人的な趣味でいうなら、「初期ルネサンス絵画」「グランドツアー」の作品群。ちなみに「グランドツアー」とはイギリス貴族のご子息が学業の終わりに行った世界を巡る修学旅行というようなものです。

BS日テレの「ぶらぶら美術・博物館」ではクリヴェッリ「聖エミディウスを伴う受胎告知」が紹介されていました。確かに大きくて、緻密で、特徴的な遠近法の絵画はなかなかの大作でした。
私が好みだったのはギルランダイオ「聖母子」。抑えたトーンの聖母子ながら、それゆえに荘厳で繊細な感じを受けました。
ティントレット「天の川の起源」はお話の登場人物である神ゼウスに天使や女神ヘラが入り乱れ、無重力空間のような絵画で印象的でした。その女神ヘラから出る母乳がこぼれ星となり、天の川になったとキャプションで知って、「あ、だからmilky wayなのね」と今更ながら思いました。※wiki情報はこちら

また「グランド・ツアー」の作品は大好きなイタリアの風景が見られました。カナレット「ヴェネチア:大運河のレガッタ」は有名ですよね。ヴェネチアは昔も今も絵になる都市だと実感しました。あと、「私も好きな画家に好きなイタリアの風景を描かせたい!」「またイタリア行きたいな~」という気持ちになりました。

愛らしいヨハネ

これはムリーリョ「幼い洗礼者ヨハネと子羊」のことです。
よく聖母子にくっついて、キリストよりちょっと年上の幼児の姿で描かれている作品は見たことありますが、単独でも可愛かったです。子羊の首もとを抱き寄せるようにして、ポーズも可愛い!愛らしい姿に癒されました。

怒濤のフランス近代絵画

最後に設けられたこの章は有名画家の作品がこれでもかと詰め込まれています。この章だけでも贅沢な布陣でした。

その中でアンリ・ファンタン=ラトゥール「ばらの籠」は美しい作品でした。この画家は「花の画家」と呼ばれていたそうです。バラといえば、マリー・アントワネットご贔屓の宮廷画家ルドゥーテが思い出されました。ルドゥーテは植物画に近く平面的な作品ですが、ラトゥールは空間も含めて静物画の要素が強い感じがしました。他の花の作品も見てみたいと思いました。

ゴッホの「ひまわり」

この作品は大トリでした。他の6枚の「ひまわり」の変遷やゴッホの概略などパネルで丁寧に紹介されており、作品としての「ひまわり」をよく知らない私にはありがたかったです。

第一印象は「黄色い塊」。黄色の持つパワーでしょうか?何かその色味以上に鮮やかな作品に思えました。ゴッホの他の作品も見たことはありますが、いつもその熱量に驚きます。塗り重ねられた絵の具を見ていると、そこから電波か何かが出ているようです。今回は人だかりが出来ていて少し離れた所から鑑賞しましたが、それでも感じるパワーでした。

まとめ

最後の「ひまわり」の部屋にこのロンドン・ナショナル・ギャラリーの歴代館長の紹介がされており、美術館のコレクションが形成される過程を少しなぞることができました。資産家、美術史家、銀行家などが名を連ねていましたが、それぞれ相当な目利きでもあったんだなぁと感心するばかりです。

今回は、よくぞ開催してくれました!と感謝の思いがよぎる展覧会でした。そしてそのコレクションの名品に触れ、いつの日か現地のロンドン・ナショナル・ギャラリーをゆっくりと見て回りたいと思いました。

国立国際美術館 これを目印に

【展覧会感想】あべのハルカス美術館「奇才―江戸絵画の冒険者たち―」展

奇才展ヴィジュアル これは大阪展独自のデザイン

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【会期】9/12(土)~11/8(日) 

概要

(1か月ほど前の話です。色々と思い出しながら書きました。)

江戸絵画の多彩さを象徴するような展覧会。有名どころから初めてお目見えの絵師まで全国から35人の絵師の作品がそろいました。これはワクワク・ドキドキのラインナップです。

私は会期終了間際に行ってきました。前評判から、見たい絵師の作品はいろいろありますが、長沢芦雪の襖絵と高知の絵師・絵金の作品は絶対見たいと思っていたので、間に合って良かったです。

芦雪の襖絵

芦雪の襖絵のある和歌山県串本町の無量寺には一度行ってみたいと思っています。(しかも青春18きっぷで紀伊半島を回りながら、という壮大な夢)このお寺の襖の配置で龍図と虎図を見ることができて、お寺の空間を少しでも感じることができました。
それにしてもこの襖に挟まれたら、お坊さんも緊張感が増すでしょうね。そしてこの襖の依頼はもともと師匠である応挙に来ていたというから、「応挙のパターンも見てみたかったなぁ」と私は妄想してしまいます。でもこんなド迫力の作品にはならなかったでしょうね。

高知の絵金

絵金という絵師も学生時代に知り、こちらも高知の絵金蔵で見ることが出来ていませんでした。どの展覧会か忘れましたが、一度作品を見たかな?という記憶があります。
地元・赤岡では、年に1回7/25に絵金祭りというのが開催されていて、それに行ってみたいとずっと思っていました。最寄り駅のキャラクターも絵金さんだったような気がします。(高知出身やなせたかし大先生のデザインです!)京や大坂の絵師より知名度はないものの、地元では地域ぐるみで大事にされています。
絵金の作品は歌舞伎などの名場面を描いています。役者が画面から抜き出てくるかと思うような人物描写、どろっとした血のような赤、その他濃い泥絵具の鮮やかな色彩が特徴です。明るい展示室で見ると美しいのですが、これがろうそくの灯りのもとだったらどうでしょう?ちょっとオドロオドロしい感じになりそうです。それもまた良い!

耳鳥斎はやはり良い

耳鳥斎(にちょうさい)は大坂の絵師です。
確か数年前の大阪市立美術館「江戸の戯画」展でそのユルさに度肝抜かれました。それからは私のお気に入り絵師の一人です。今回は「別世界巻」というさまざまな地獄の責め苦を描いた絵巻が出ていましたが、それがゆるくて面白く、風刺も効いています。
今回、後期より前期の方が出展数が多かったのが悔しいポイントでした。

高井鴻山の作品はまた別次元

高井鴻山といえば、信州小布施の豪農商で、当時の思想家、文人墨客と親交があった人物です。葛飾北斎を小布施に招き、自身も北斎に弟子入りしたことが有名だと思います。この展覧会では鴻山自身の作品を見られる珍しい機会でした。

今回、北斎の「上町祭屋台天井絵 男波」か最初にドーンと展示されていますが、これは「女波図」と対になる作品です。学生時代に「女波」の枠部分に描かれた天使のような謎人物を見たことがあります。それを鴻山が描いたと言われています。その初対面以来、鴻山の作品に接しました。
鴻山が描く妖怪たちは精緻でグロテスクでありながら、見るうちに愛着もわいてくるようなものでした。北斎の画業を支えた人物というだけでは勿体ないですね。今度は絵師・鴻山の画業も追っていきたくなりました。

語り尽くせない!

それぞれの絵師について語り尽くしたいところですが、まとまりがなくなってしまいそうなので、特に印象的な、思い入れのある絵師について述べました。それくらいお腹いっぱい盛り沢山の展覧会だったことは伝わったでしょうか?

奇才とは

最初、実はこの「奇才」という題名がちょっと引っかかってはいました。有名どころと、あと自分が知っている絵師も多くいたので、「奇才=奇をてらって描く絵師」のように思われないかと心配していました。おそらく大きなお世話ですが。
昨年の東京都美術館「奇想の系譜展―江戸絵画ミラクルワールド―」とも目玉になる絵師は重複しています。この時も「人気者だもんね、展覧会組むのもしょうがないよ」「まだ1970年の辻惟雄先生の著書にしがみついているのってどうなの?新機軸を求む!」と複雑な気持ちがわいてきました。しかし今回は、『奇想の系譜』メンバーは定着し、むしろその筋では王道のような扱いで、近年人気の「ゆるカワ」な作品が新しいジャンルを作っているように思いました。なので、自分の中では「『奇想の系譜』オールスターズと地方の愉快な仲間たち」ということで納得することとします。

自分用メモ

最後に本文では触れませんでしたが、気になる絵師を自分へのメモとしてのこしておきます。
・蠣崎波響
・佐竹蓬平
・神田等謙

早くもあべのベアのクリスマスツリーが飾ってありました