【展覧会感想】大和文華館「水のめぐみ 大地のみのり」展

【大和文華館 展覧会ページ】

【会期】2020年2/21~4/5
※3/3より臨時休館、そのまま会期終了

美術館にいけなかった2ヶ月間

新型コロナウィルス感染拡大によって、美術館・博物館は臨時休館を余儀なくされました。私も春のシーズンに美術館に行けずムズムズしながら、命を最優先に考えてSTAY HOMEの日々でした。美術館に行かなかった期間としては出産直前と産後の3ヶ月間が最長だったので、それほどダメージは少ないように思います。

先日奈良でも緊急事態宣言が解除され、美術館等も再開する情報が聞かれるようになりうれしい限りです。その前に、臨時休館になる直前(2/29)に観に行けたこちらの展覧会について記しておきたいと思います。

どんな展覧会でも企画、広報、展示やいろいろ万全の状態で始められるように準備に尽力された担当の学芸員の方がいます。一番悔しいのはその方々ではないでしょうか?
「私は幸運にも展覧会を見られたので、嬉しかったです!楽しかったです!」という気持ちを伝えたいと思います。

全体の印象

展示全体から感じたことは、実に健やかであること。
この展覧会タイトルの副題に「野菜、果物、魚介の美術」とあり、まあそのままなのですが、要はこれらが豊穣・豊漁を願う、おめでたい意味を持って描かれたりしているということです。コロナウイルスの不穏な空気が漂う中、この人類不変のおめでたいモチーフを見て「ちょっと元気が出た」と思いました。
その意味での「健やかさ」がありました。

こういった作品は中国が始まりで東アジアに伝播します。田畑を耕し魚を取るという自給自足の生活は世俗から離れて暮らす者の理想となり広く人気となったためでした。それを中国・朝鮮の作品から日本のものまで見られるのは興味深かったです。

一番気になっていた作品は

一番気になっていた作品は、チラシ・ポスターにも採用されている岸連山筆「野菜涅槃図」(個人蔵)です。

これは見立涅槃図というジャンルの作品です。元となる仏教絵画の涅槃図は釈迦が入滅する場面を描いたもので、中央に横たわる釈迦が、その周りには悲しむ弟子たちやたくさんの生き物を描いています。江戸時代になり見立涅槃図が盛んに描かれ、そのうちの一つが大根を釈迦に見立てた果疏涅槃図です。

私は若冲が好きなので、最初見たとき若冲の果疏涅槃図を思い浮かべてしまい、「若冲にこんな作品あったっけ?」と考えてしまいました。若冲の作品は水墨作品でしたね。
伊藤若冲「果疏涅槃図」 (Google Arts&Cultureより)

若冲の方は形もかなりデフォルメしていてユーモラスな雰囲気がありますが、岸連山の作品は野菜たちのみずみずしい様子が伝わってきます。いろんなモノが描かれている画面なのにまとまりがあるように見えました。それは画家の構成力が効いているのもありますが、元の仏教絵画の涅槃図が頭に入っていてパロディとしても楽しめているからかもしれません。

そのほか気になった作品

富岡鉄斎筆「車海老図」「伊勢海老図」
とにかく新鮮なみずみずしい様子が伝わってくる作品。鮮度を絵に閉じ込めたといってもいいのでは。これは頂き物の車海老・伊勢海老のお礼の手紙に添えられた絵で、こんなお礼状が着たら贈ったほうも嬉しくなると思います。

李宗謨筆「陶淵明故事図巻」
自給自足の生活で隠遁者の理想像となった陶淵明。その故事の一つ、弦のない琴を弾く段が印象的でした。陶淵明は音痴だったのでこの琴をつまびいて音を想像して楽しんだというもの。音痴だったことにちょっと笑ってしまいましたが、なんとも風流なエピソードですね。

明るい画面で華やかな作品。蝶もおめでたいモチーフです。パステルのようなやさしい色調の草花や野菜と鮮やかな色の蝶の対比がきれいです。中国・清時代の作品ということで、西洋絵画の技術も使われたのかな?と思わせる作品です。

最後に

観に行った日は土曜日で、ちょうど14時からの列品解説があるところでした。担当の学芸員さんから展示スペースで各作品の解説を聞けるというものです。一時間程度、途中で輪から抜けても入ってもよいというスタンスなので気軽に参加できます。(入館していれば無料です)

私はこの解説にめったに遭遇することがなくて(むしろちょっと混むので、あえてはずすことが多いです)、最初だけ聞いてみました。わかりやすく丁寧に解説されていて、キャプションだけでは頭に入ってこないこともスッと理解できました。これを目当てに来られてる方も多いでしょうし、支持されているから長く続いているんでしょうね!



新型コロナウィルスがもたらした社会への影響は美術館の教育普及の取組み、来館者を増やすための方策にも大きな変革を迫っています。
この大和文華館でも講演や独自の講座、音楽のコンサートなどいろいろなイベントを毎回企画していました。それがafterコロナ、withコロナの世界ではリスクとなってしまうのは本当に残念です。しかし、悪いことだけではなくて、オンラインの活用など地方に住む人間にとってはこれから可能性が広がることも増えてくるように思います。どちらにしろ、大きな転換点を迎えていると思います。

私に出来ることは、感染対策を個人でもきっちりやって、再開する美術館の展覧会に行くことです。今回のことで途中で休館になってしまったり、開くことさえ出来なかった展覧会(そしてその担当の学芸員さん)のことを思うと悔しい気持ちですし、行きたいところには行っておくべきだなと思いました。

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