【展覧会感想】あべのハルカス美術館「奇才―江戸絵画の冒険者たち―」展

奇才展ヴィジュアル これは大阪展独自のデザイン

【展覧会特設HP 

【美術館HP(展覧会ページ)】

【会期】9/12(土)~11/8(日) 

概要

(1か月ほど前の話です。色々と思い出しながら書きました。)

江戸絵画の多彩さを象徴するような展覧会。有名どころから初めてお目見えの絵師まで全国から35人の絵師の作品がそろいました。これはワクワク・ドキドキのラインナップです。

私は会期終了間際に行ってきました。前評判から、見たい絵師の作品はいろいろありますが、長沢芦雪の襖絵と高知の絵師・絵金の作品は絶対見たいと思っていたので、間に合って良かったです。

芦雪の襖絵

芦雪の襖絵のある和歌山県串本町の無量寺には一度行ってみたいと思っています。(しかも青春18きっぷで紀伊半島を回りながら、という壮大な夢)このお寺の襖の配置で龍図と虎図を見ることができて、お寺の空間を少しでも感じることができました。
それにしてもこの襖に挟まれたら、お坊さんも緊張感が増すでしょうね。そしてこの襖の依頼はもともと師匠である応挙に来ていたというから、「応挙のパターンも見てみたかったなぁ」と私は妄想してしまいます。でもこんなド迫力の作品にはならなかったでしょうね。

高知の絵金

絵金という絵師も学生時代に知り、こちらも高知の絵金蔵で見ることが出来ていませんでした。どの展覧会か忘れましたが、一度作品を見たかな?という記憶があります。
地元・赤岡では、年に1回7/25に絵金祭りというのが開催されていて、それに行ってみたいとずっと思っていました。最寄り駅のキャラクターも絵金さんだったような気がします。(高知出身やなせたかし大先生のデザインです!)京や大坂の絵師より知名度はないものの、地元では地域ぐるみで大事にされています。
絵金の作品は歌舞伎などの名場面を描いています。役者が画面から抜き出てくるかと思うような人物描写、どろっとした血のような赤、その他濃い泥絵具の鮮やかな色彩が特徴です。明るい展示室で見ると美しいのですが、これがろうそくの灯りのもとだったらどうでしょう?ちょっとオドロオドロしい感じになりそうです。それもまた良い!

耳鳥斎はやはり良い

耳鳥斎(にちょうさい)は大坂の絵師です。
確か数年前の大阪市立美術館「江戸の戯画」展でそのユルさに度肝抜かれました。それからは私のお気に入り絵師の一人です。今回は「別世界巻」というさまざまな地獄の責め苦を描いた絵巻が出ていましたが、それがゆるくて面白く、風刺も効いています。
今回、後期より前期の方が出展数が多かったのが悔しいポイントでした。

高井鴻山の作品はまた別次元

高井鴻山といえば、信州小布施の豪農商で、当時の思想家、文人墨客と親交があった人物です。葛飾北斎を小布施に招き、自身も北斎に弟子入りしたことが有名だと思います。この展覧会では鴻山自身の作品を見られる珍しい機会でした。

今回、北斎の「上町祭屋台天井絵 男波」か最初にドーンと展示されていますが、これは「女波図」と対になる作品です。学生時代に「女波」の枠部分に描かれた天使のような謎人物を見たことがあります。それを鴻山が描いたと言われています。その初対面以来、鴻山の作品に接しました。
鴻山が描く妖怪たちは精緻でグロテスクでありながら、見るうちに愛着もわいてくるようなものでした。北斎の画業を支えた人物というだけでは勿体ないですね。今度は絵師・鴻山の画業も追っていきたくなりました。

語り尽くせない!

それぞれの絵師について語り尽くしたいところですが、まとまりがなくなってしまいそうなので、特に印象的な、思い入れのある絵師について述べました。それくらいお腹いっぱい盛り沢山の展覧会だったことは伝わったでしょうか?

奇才とは

最初、実はこの「奇才」という題名がちょっと引っかかってはいました。有名どころと、あと自分が知っている絵師も多くいたので、「奇才=奇をてらって描く絵師」のように思われないかと心配していました。おそらく大きなお世話ですが。
昨年の東京都美術館「奇想の系譜展―江戸絵画ミラクルワールド―」とも目玉になる絵師は重複しています。この時も「人気者だもんね、展覧会組むのもしょうがないよ」「まだ1970年の辻惟雄先生の著書にしがみついているのってどうなの?新機軸を求む!」と複雑な気持ちがわいてきました。しかし今回は、『奇想の系譜』メンバーは定着し、むしろその筋では王道のような扱いで、近年人気の「ゆるカワ」な作品が新しいジャンルを作っているように思いました。なので、自分の中では「『奇想の系譜』オールスターズと地方の愉快な仲間たち」ということで納得することとします。

自分用メモ

最後に本文では触れませんでしたが、気になる絵師を自分へのメモとしてのこしておきます。
・蠣崎波響
・佐竹蓬平
・神田等謙

早くもあべのベアのクリスマスツリーが飾ってありました

【展覧会感想】あべのハルカス美術館「カラヴァッジョ展」

【美術館HP】https://www.aham.jp/

【公式HP】 http://m-caravaggio.jp/

【会期】2/16(日)まで

展覧会の概観

2020年1発目はカラヴァッジョ展から。とても楽しみにしていました!

一昨年、夫婦でイタリア旅行にいったとき、るるぶのガイドブックにカラヴァッジョの作品巡りの特集がありました。その時にすごく惹かれてましたが、時間が足りなかった…現地では見られませんでした。

現地で実物を見るのが私の理想ですが、せっかく日本に来てくれるのだから見ない手はない!
しかし、最初の札幌展の時点で作品が届かないまま終了したり、不穏な感じでした。大阪展では「 ホロフェルネスの首を斬るユディト」「 瞑想するアッシジの聖フランチェスコ 」がイタリア側の手続きの問題で来ないことに…それでチラシのコピーが「赦したまえ。」か??夫と「さすがイタリア・クオリティ!」と皮肉を込めて言ってしまいました。
ともあれ、10点(?付の作品を含む)も作品が揃うのは貴重な機会です。

 大阪展のみ展示 

  《執筆する聖ヒエロニムス》

  《悲嘆に暮れるマグダラのマリア》

カラヴァッジョ周辺の作品も見応え充分でした。コラムヤマザキマリ先生のカラヴァッジョに扮したコメントやわかりやすいカラヴァッジョ周辺画家のキャプションが読みやすかったので、理解が進みました。他にもコラム等読み物が多めだったのですが、展示が40数点と多くなかったので、文字を追っていても辛くなかったです。

あと、イタリア全土に散らばる彼の作品の紹介パネル…写真撮りたかった…まだまだ見ていない作品が多いことよ!これはまたイタリア行かなあかんやつ!!

カラヴァッジョという画家について

彼の人生はイタリア全土を横断します。

若いときはミラノで修行、画業が認められローマで引っ張りだこ。でも素行が悪くてすぐ喧嘩したり、やっかみをかって訴えられたり…それでも庇護者がいたり、やはり天才的な画業は 常に評価されていたという印象です。

終いには乱闘で殺人を犯してしまい(過失致死?)ローマを逃げ出してしまいます。南へと向かい、ナポリでも他の画家に大きな影響を与えます。またナポリでも乱闘騒ぎを起こし、今度はカラヴァッジョが刺されるいう事態に。

その翌年、恩赦を請いにローマで向かう途中、熱病にかかり38歳で亡くなってしまうという壮絶人生でした。太く短いながら、残したものは大きかったのだな、と今回の展示では感じさせます。

特徴

それは生々しいほどの写実的表現・光と影(闇)のコントラスト。

これはもはや劇画です。鑑賞者を物語へグッと引き込む力があります。宗教画であれば、自分事として鑑賞者が引き込まれるように意図して描いているように思えます。ハルカス美術館の上席学芸員の方のコラムに、「聖女を描いていても、そのモデルは娼婦だったりする。聖と俗が表裏一体となって、そのはざ間で「生」を表現していた」というような文言があり、カラヴァッジョのおもしろさを感じました。

はっとするような写実表現の素地は、最初の方で展示されていた果物などの静物画を描いていた若い頃に鍛えられたのかな?と私は想像しています。

印象的な作品

《法悦のマグダラのマリア》

法悦(ほうえつ)とは「 仏の道を聞いて起こる、この上ない喜び。転じて一般に、うっとりするような喜び。エクスタシー。」とgoogleでは出てきますが、私は信仰心によってもたらされる最上級の喜び、それによって精神的に満たされた状態と解釈しています。この状態が宗教心があるのかないのか微妙な日本人にはわかりにくい、そしてのめりこみ方が新興宗教的で表情もちょっと怖いなと正直思ってしまいました。 見てるうちに性的表現とも感じてしまったりして、余計に怖かったり…違和感が拭い去れません。

「何かが違う?? この感じを言語化するとしたら…」

それは出産直後の自分の姿ではないかと。

まあ自分が約半年前に出産したばかりと言うのもあるのですが。 脱力したマグダラのマリアと十数時間の陣痛に耐えズタボロになった自分の身体を重ねました。生まれたてのわが子を胸に抱いたとき、自然と涙があふれてきました。 彼女と同じ、精神的にはこの上ない喜びと安堵に満たされていました。それが「生きている」実感、「生きる」ということでは? 自分の勝手な解釈ですが、そんな姿に感じられたのです。

最後に

彼は人生も作品も、光と闇、聖と俗を行き来しながら、「生」を表現し続けた画家だと思います。それが今回の私の個人解釈につながりました。それだけでも行ってよかったと思います。

今回、画家についての「評伝」が面白いなと感じました。会場にもタペストリーでその文言の一部が展示されていました。カラヴァッジョはいろんな悪評がありますが、画業が順調なことへの妬みから書かれている部分も多いようです。一方で率直に評価されていたり。書く人物の立ち位置によって評価も変わってくるところが興味をひきますね。

あとはもう「イタリアに行きたい!!!」 これだけです。